お皿洗い

田舎の町でエンジニア。趣味のお話をふわっと書きます。

絵描き歌

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「車の絵を描いてください」

 

そう言われて、まず何の線を描くか…?

なんとなくボンネットあたりから線を引き始め、そのままフロントガラス、ルーフ、リアガラスと車のボディ上面をなぞり、そのままトランク(リアハッチ)を経由して今度はボディ下面をなぞり最後にヘッドランプに到着する。こうやって書く方は結構多いと思う。僕もそうだった。

ここでの個人的な推奨は「タイヤだけを描く」。

今日はそういう話。(モデリングテクニックの話題ではない、お車モデリングの体験談)

 

1.

機械や道具というものは必ず自身の存在意義となる目的を持っている。ハサミであれば紙を剪断する、カメラであれば写真を撮る、信号機であれば人に特定の色を視認させる…といった具合に。そして、その目的を実行するために必要な機構や、適した形状をしている。していなければならない。

機構的デザインをする際、この目的を第一に考えて組み立てていくと、破綻のない合理的なデザインができあがる。ハサミで例えると、剪断をする刃のサイズを決め、そこを開閉する為に必要な回転軸を設け、それらを人の手で扱えるように指の入るサイズの輪を付けてあげればハイ完成。もし手に馴染まないのであれば、用途や手のサイズに合わせて各所の形状を変えればいい。すべてが正しい。

だが、それではつまらないと声を上げる観点がある。意匠的デザインだ。

機構的デザインで出来上がるものは、それこそ機械的に出来上がる個性のないものになる。そこに官能的で定性的なパラメータを持たせるのが意匠の力である。直感的に人の所有欲に訴えるのはこっちの方だろう。

ただ、意匠的デザインのアプローチで組んだものは、機構的に破綻することが往々にしてあって……まぁ、そんなことは遊びでのモデリングにおいてはどうでもいい。

とにかく最初にタイヤを置く。

そしてそれ以降の作業は全て、最初に置いたタイヤを基準に配置していく。これが良いと思う。

ここで置くタイヤはしっかりと狙ったサイズを指定すると後が楽になる。

その際、狙っているサイズをシンプルに「幅」と「径」の数字で指定したいところだが、一般的にタイヤのサイズを示す数値は「タイヤ幅」と「扁平率」と「ホイールサイズ」で"235/40R18"といった具合に表示されることがほとんどで、「径」の物理値の情報が意外と拾いにくかったりする。地道に扁平率とホイールサイズから計算すればいいだけの話だが、タイヤ通販サイト等でも算出してくれたりするので、そういうところを使ってタイヤ径を得るのが楽だと思う。JATMAの規格値が見れるのであればそれが一番手っ取り早いが。

4輪の相対位置、つまりはホイールベーストレッド幅もしっかりと狙いの値を入れておくと良い。実際にモデリングをするのは左右どちらかの半身だけ(最後にミラーリング)なので、トレッド幅に関しては1/2の値を原点軸からの距離として置くことになると思う。

タイヤを置いたら、カーモデリングの6割は終わったと言っていい。

 

 

2.

タイヤの次に何を作るか…?

ここで早速ボディのデザインを始めたい気持ちがよくわかるが、実はまだ早い。ボディよりも重要な、車にとって欠かせない物をここで置く。

 

ドライバーである。

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あらかじめ運転中の姿勢を作ったドライバーの3Dモデルがあると、ここで革命的に捗る。

※ただし、ここで「可愛いから」とあまり頭身が偏ったモデルを使うと厳しいことになるので、出来るだけ現実的な頭身と身長のモデルを起用する方が良い。

 

先に置いたタイヤとの相対的な位置を観ながら、ドライバーを配置する。ここでは(車の進行方向に対し)前後方向だけの位置を見ればいい。左右位置や高さ方向はどうせ終盤に微調整を行うことになるのでおおよそで良い。前後位置も悩むようであれば、とりあえず前後タイヤの中間点に置けば失敗はしない。

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ここで冒頭の「車を何処から描く?」問題に繋がるのだが、車をボディから描いてしまうと、慣れないうちはボディも前後対称に描きがちで、その後に配置されるドライバー位置もリアシートと前後対称になる位置に置かざるを得ず、かなり可愛らしいバランスの良いアンバランスなお車を生むことになってしまう。これはモデリングでも同じことが言える。

車というもの、例え4ドアのセダンであってもボディデザインは前後対称ではないのだ。ドアウィンドウとタイヤの位置関係を比較すればすぐに気が付くことだが、タイヤを軸に観たときにドライバーが常に中央にいるようにデザインされている。少なくともここ20年はそう。

これを踏まえ、タイヤに次いでドライバーを配置できたのであれば、このドライバーとタイヤを包むよう(破綻しないよう)に程よい曲線で車っぽい線を描いてみると、思っている以上に車っぽい線が引けるはずだ。スポーツクーペでもセダンでも、フォーミュラカーでも良い。

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ここまで到達すれば、もうカーモデリングは8割は終わったと言える。

 

 

3.

「タイヤとドライバーを実サイズでしっかりと配置する」というプロセスを経て引いたボディラインを元に、えいっと造形をすれば車がおおよそ完成する。ここはもう車云々というよりも、単純にモデリングのテクニックの話なのでそこは皆さんの方が詳しいだろう。流派も色々とあるでしょうし。

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ここまで9割。あともう少しで完成だ。

 

 

4.

最後の仕上げ…というよりも、カーモデリングとしての完成度(≒自己満足度)を跳ね上げるテクニックとして、「ホイール周りのモデリングをガチる」というものがある。あった。実際に作りながら実感した。

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車というもの、ぱっと見た際に視界に移る表面積の約1/5はタイヤ・ホイールが占めている。実は存在感がかなり大きい部位。故にホイール交換で車の印象が大きく変わるのだ。

あと、ホイールは構造上、円形の幾何学的な造形で構築されるものがほとんどだ。つまり、造形作業が他の部位に比べて圧倒的に楽なのだ。僕が作った10本スポークのホイールも、実際には線を描いたのは1本のスポークだけであり、それをミラーリングで2本1組の対称にし、更にそれを円形のパターン配置で5組/360°になるようにコピーしただけである。

作りこみに対する費用(時間)対効果がとても高いのだ。ボディの部分的な修正に拘るぐらいなら、ホイールに凝った方がおおざっぱな満足度は得やすい。

 

あと、今回は興が乗ったのでブレーキシステムもフルスクラッチをした訳だが、これがなかなか面白かった。ホイールモデリングの記事はちょいちょい見つかったが、ブレーキキャリパーのモデリング記事は全然見当たらなかったので、完全に我流だったが。

 

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まず、適当にブレーキディスクをえいっと造形する。サイズなどは実在する物のカタログを参照すれば大体作れる。ちなみに僕はBremboを参考にした。APと悩んだが。

 

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次にブレーキの有効径を決める。

有効径というのは、そのブレーキディスクに対して制動モーメントを発生させる摩擦力(≒垂直抗力)の中心位置である。上の画像だとφ298mmがそれ。

ブレーキの制動力はディスクとパッドの摩擦によって得られるものだが、ブレーキディスクにブレーキパッドを押しつける役割はブレーキキャリパーが持っており、キャリパーにある円形のピストンがその機構部分である。このピストンの中心点がこの有効径に位置する(ようにキャリパーを配置する)

ちなみに、このキャリパーのピストンはブレーキフルードの液圧で押し出されるものであり、液圧の発生源はドライバーのブレーキペダルである。こうやって人と車は繋がっているんです。

 

有効径を決めたら、その円周上にキャリパーのピストンの円を配置する。今回は対向6potブレーキを作りたかったので、片面に3つのピストンを並べた。なお、キャリパーのピストンは基本的に異径である。これが意外と知られていない。

ピストンの異径にすることで、制動時のディスクの振動や異音を防ぐことができる…といったブレーキメーカーの何十年も煮込んできたノウハウがここに詰まっている。なぜこのサイズが良いのか?なぜこの組み合わせなのか?…まったく想像ができないが、何か「良いこと」が詰まっているらしい。

(とはいえ、カタログにはこれらのサイズも全て記載されている)

 

ピストンの円が置けたら、あとはえいっと肉を盛ってキャリパーの出来上がり。

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ディスクを置き、有効径を決め、ピストンを置き、肉を盛る。このプロセスで行けば、適用にやってもそれっぽいブレーキキャリパーが作れると思う。

 

お洒落は足元からというが、ブレーキまで作りこんだモデルはレンダリングしてみるとかなり見応えがあるものにある。これはかなり満足の出来。

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【まとめ】

機械モノのモデリングは、とにかく理屈と数字で線を引くことが積算で効いてくる。

 

 

ぜひ、皆さんもやってみてね。VRで愛車自慢オフ会やろうね。

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